退職を引き止められたら|感謝しながら、自分の気持ちを確かめる

「もう少し、考えてもらえないだろうか」

退職の意思を伝えたあと、そんな言葉をかけられる。

必要としている。これからも期待している。今、辞めるのはもったいない。

時間をかけて決めたはずなのに、気持ちが揺れる。自分のことを考えてくれているのかもしれない。ここで辞めたら、残る人に迷惑をかけるのではないか。

一人で考えていたときにはなかった、申し訳なさも出てくる。

引き止めてもらったことを、うれしく感じてもいい。話を聞いて、考え直してもいい。

ただ、その言葉を受け取ることと、残ると決めることの間には、自分の気持ちを確かめる時間を置ける。

相手が引き止める理由と、自分が退職を考えた理由。その両方を、分けて見てみよう。

1.必要とされると、気持ちは揺れる

退職を伝えて初めて、評価されていたことを知る場合がある。

担当してきた仕事の大切さを説明される。今後の役割を提案される。これまでの働きをねぎらわれる。

もっと早く聞きたかった、と思うこともあるだろう。

ずっと頑張ってきた仕事なら、なおさらだ。自分がいなくても同じだと思っていたところに、「いてほしい」と言われると、心が動く。

その気持ちを、否定する必要はない。

でも、必要とされていることがわかっても、働く毎日が変わるとは限らない。

帰宅時間。担当の量。意見を伝えたときの接し方。家族と過ごす時間。

退職を考えたときに気になっていたことは、どうなっただろうか。

評価してもらえたうれしさと、ここで働き続けたいかは、一緒に確かめていい。

2.気遣いと、会社の事情が重なることもある

引き止める人の中にも、いくつかの気持ちがあるかもしれない。

一緒に働いてきた人に残ってほしい。次の場所で困らないか心配だ。まだ力を発揮できると思っている。

同時に、担当している仕事を誰が引き受けるのか、後任をいつ用意できるのか、残る人の負担はどうなるのか。そうした会社側の事情もある。

気遣いと、抜けられると困る事情。その両方が重なっていることもあるだろう。

相手の本心を、すべて確かめるのは難しい。

だから、気遣いを疑い続けるより、何を求められているのかを具体的に聞いてみる。

自分にとってよい条件を提案しているのか。引き継ぎの時間が必要なのか。今の担当を、そのまま続けてほしいのか。

例えば、「あと少し残ってほしい」と言われたら、何のために、いつまで必要なのかを確かめる。

引き継ぎの相談なら、担当や予定の話をする。残留の提案なら、これからの働き方の話をする。

会社の事情を理解することと、その事情を全部引き受けることは、分けて考えられる。

3.辞めたいと思った理由に戻ってみる

引き止めの話が続くと、相手の希望をどう受け止めるかで頭がいっぱいになる。

そんなときは、退職を伝える前の自分に戻ってみよう。

何がつらかったのか。何を変えたかったのか。離れたあと、どんな毎日を過ごしたいと思っていたのか。

帰宅しても仕事の連絡が続いていた。得意な役割ばかりが増えて、新しいことに取り組めなかった。相談しても、仕事の量が変わらなかった。

あるいは、今の職場に大きな不満はなくても、別の仕事を試したかったのかもしれない。

その理由に対して、今回の話で何が変わっただろうか。

給与が上がる提案は、収入が理由なら大切な変化になる。一方で、家族との時間がほしかったなら、勤務や担当も確かめたい。

役職が変わっても、続けたくない仕事が増えるなら、自分の希望には近づかないかもしれない。

条件がよくなったかだけでなく、自分が変えたかった毎日に近づくかを見てみよう。

必要なら、退職を考えた理由と、今回の提案を短く書き並べてみる。話しているときの勢いから少し離れると、考えやすくなることもある。

4.残ることを考えるなら、何が変わるかを聞く

「これからは、もっと配慮する」

「負担を減らせるようにする」

そう言われて、もう一度続けてみたいと思うこともある。

その場合は、気持ちと一緒に、実際の変更を確かめておこう。

どの担当を減らすのか。誰が引き受けるのか。いつから変わるのか。新しい役割では、何を求められるのか。

話した内容を、後から確認できる形にしておく。試す期間を設けるなら、振り返る時期も相談する。

すぐに変えられないことがあるなら、その間の働き方も聞いてみたい。

「人が入ったら」だけでは、いつ負担が変わるかはわからない。採用までに何を減らし、どう分担するのかも必要になる。

そして、自分にも問いかける。

「この変更が実現したら、ここで働き続けたいだろうか」

条件が整っても、別の道に進みたい気持ちが残ることはある。提案してもらったからといって、必ず受け入れなければならないわけではない。

反対に、話し合って、自分の希望を伝えたうえで残るなら、それも選び直した結果だ。

離れることも、残ることも、自分が納得できる条件で考えていい。

5.感謝と、退職の意思は一緒に伝えられる

話を聞いたうえで、やはり退職したいと思う。

そうなったとき、相手の気遣いを否定してまで、自分の決断を説明する必要はない。

引き止めてくれたことには感謝する。そのうえで、自分が考えた結果を伝える。

例えば、こんな言葉でもいい。

「気にかけていただき、ありがとうございます。いただいたお話も踏まえて考えましたが、退職の意思は変わりません。引き継ぎについて、具体的に相談させてください」

相手の事情を聞くことはできる。でも、話すたびに、退職したい気持ちを最初から証明し直さなくてもいい。

引き継ぐ仕事を整理する。必要な情報を残す。担当者や予定を相談する。

自分が対応できる範囲を伝え、会社側にも分担を考えてもらう。

誠実に引き継ごうとすることと、会社の不安がすべてなくなるまで残ることは、同じではない。

感謝は、これまでの時間に向けて伝えられる。これからの時間は、自分の希望も含めて選べる。

6.必要とされる場所から、自分が選びたい場所へ

必要としてもらえることは、うれしい。

ただ、その気持ちだけで、自分の次の時間を決めなくてもいい。

落ち着いて働きたい。違う分野を知りたい。家族と過ごす時間を増やしたい。少し休んで、これからを考えたい。

退職を考え始めたときの希望も、ここに置いておこう。

「時おり、マップ。」を見返すなら、相手に求められている道に加えて、自分が気になる道にも○をつけてみる。

職場を変える。働く量を減らす。学び直す。少し休む。

その時間を持つために、何を準備すればよいか。今できることを、一つずつ考えていく。

残ることを選んだなら、話し合った働き方が実現しているかを確かめる。離れることを選んだなら、引き継ぎを進めながら、次の暮らしを整える。

これまで働いてきた時間は、どちらを選んでも、自分の経験として残る。

お世話になった人に感謝して、新しい場所へ進む。希望を伝え、今の職場で働き方を変える。

どちらにも、自分で選ぶ余地がある。

必要としてもらった気持ちを受け取りながら、自分が過ごしたい毎日も大切にしていい。

その希望を持って、これからの働き方を選んでいこう。

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